2019710日発行】

========================================================================
        人事労務マガジン/7月号
========================================================================

【今号の内容】 

 賃金請求時効問題

 外国人雇用状況届出事項として在留カード番号を追加

 災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準の一部改正について



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.賃金請求時効問題・有給休暇取得時効について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 *労基法115条改訂問題:年次有給休暇の取得時効は2年のままの方向。賃金請求権は、今後の検討課題とし、結論を出すこととなった。


20204月に民法が改正されることにより、債権の時効が原則的に、債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないときとされることとなっています。一方、労働基準法115条では、賃金の消滅時効を2と定めていることから、この見直しが必要ではないかと厚生労働省の「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」で議論が行われてきました。先日、そのとりまとめとして「論点の整理」が公表されています。
 結論としては、労使の意見の隔たりが大きく、早急に労働政策審議会で検討し、一定の結論を出すとしており、まだ方針の決定までは至っていません。それでも大きな方向性はある程度出されていますので、以下ではそのポイントとなる箇所を取り上げたいと思います。
1.賃金請求権の消滅時効期間について
・労基法115 条の消滅時効期間については、労基法制定時に、民法の短期消滅時効の1年では労働者保護に欠けること等を踏まえて2年とした経緯があるが、今回の民法改正により短期消滅時効が廃止されたことで、改めて労基法上の賃金請求権の消滅時効期間を2年とする合理性を検証する必要があること
・現行の2年間の消滅時効期間の下では、未払賃金を請求したくてもできないまま2年間の消滅時効期間が経過して債権が消滅してしまっている事例などの現実の問題等もあると考えられること
・仮に消滅時効期間が延長されれば、労務管理等の企業実務も変わらざるを得ず、紛争の抑制に資するため、指揮命令や労働時間管理の方法について望ましい企業行動を促す可能性があることなどを踏まえると、現行の労基法上の賃金請求権の消滅時効期間を将来にわたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないかと考えられる。
・この検討会の議論の中では、例えば、改正民法の契約上の債権と同様に、賃金請求権の消滅時効期間を5年にしてはどうかとの意見も見られたが、この検討会でヒアリングを行った際の労使の意見に隔たりが大きい現状も踏まえ、また、消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていることや、大量かつ定期的に発生するといった賃金債権の特殊性に加え、労働時間管理の実態やその在り方、仮に消滅時効期間を見直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間については速やかに労働政策審議会で検討し、労使の議論を踏まえて一定の結論を出すべきである。


2.賃金請求権以外の消滅事項について
(1)
年次有給休暇請求権
・年次有給休暇に関しては、そもそも年休権が発生した年の中で取得することが想定されている仕組みであり、未取得分の翌年への繰越しは制度趣旨に鑑みると本来であれば例外的なものである。仮に賃金請求権の消滅時効期間と合わせてこの年次有給休暇請求権の消滅時効期間も現行よりも長くした場合、こうした制度の趣旨の方向と合致せず、年次有給休暇の取得率の向上という政策の方向性に逆行するおそれもある。
・この検討会での議論やヒアリング等においては、以上を踏まえると必ずしも賃金請求権と同様の取扱いを行う必要性がないとの考え方で概ね意見の一致がみられるところである。
(2)
災害補償請求権
・仮に労基法の災害補償請求権の消滅時効期間を見直す場合、使用者の災害補償責任を免れるための労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)の短期給付の請求権の消滅時効期間の取扱いをどのように考えるか、さらに、その場合に他の労働保険・社会保険の給付との関係、併給調整をどう考えるかといった課題がある。
・この点に関しては、仮に労基法の災害補償請求権の消滅時効期間を見直した場合に、労災保険制度の短期給付の請求権の消滅時効期間についても併せて見直しを行わないと、労災保険制度の短期給付が2年で時効となったとき以降は、直接使用者に労基法上の責任が生ずることとなり、企業実務に混乱を招くおそれもあることに留意が必要である。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

2.外国人雇用状況届出事項として在留カード番号を追加

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「外国人雇用状況届出事項として在留カード番号を追加し、同番号を含めた外国人雇用状況届出情報を両省間で情報共有し、法務省の有する情報と突合を行うこと等により、より一層適切な雇用管理、在留管理を図ることとし、平成31年度中に所要の措置を講ずることを目指す」こととされたことを踏まえ、外国人雇用状況届出の届出事項に在留カード番号を加える等、以下の改正が予定されています。

 

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(案)【概要】
 
1.概要

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法 律(昭和 41 年法律第 132 号。以下「法」という。)第 28 条第1項において、事業主は、 新たに外国人を雇い入れた場合又はその雇用する外国人が離職した場合には、厚生労働 省令で定めるところにより、その者の氏名、在留資格、在留期間その他厚生労働省令で定める事項について確認し、当該事項を厚生労働大臣に届け出なければならないことと されている。

今般、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(平成 30 12 25 日関係閣 僚会議了承)において、「外国人雇用状況届出事項として在留カード番号を追加し、同番号を含めた外国人雇用状況届出情報を両省間で情報共有し、法務省の有する情報と突合 を行うこと等により、より一層適切な雇用管理、在留管理を図ることとし、平成 31 年度 中に所要の措置を講ずることを目指す」こととされたことを踏まえ、外国人雇用状況届 出の届出事項に在留カード番号を加える等所要の改正を行うこととする。
 
2.改正の内容

(1)届出事項について(第 10 条第1項関係) 事業主は、外国人雇用状況届出において、中長期在留者については在留カードの番号を届け出なければならないこととする。

   出入国管理及び難民認定法(昭和 26 年政令第 319 号)第 19 条の3において、出入国在留管理庁長官が中長期在留者に対し、在留カードを交付することとされて いる。

(2)届出事項の確認方法について(第 11 条関係) (1)の在留カードの番号の届出に当たって、事業主は、当該在留カードの番号 について、在留カードにより確認しなければならないこととする。(3)その他 様式第3号の外国人雇用状況届出の様式について在留カードの番号を記載する欄 を追加するほか、所要の改正を行う。

 

令和231日に施行見込みです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

3災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準の一部改正について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

労働基準法では、法定労働時間および法定休日を定めており、これを超えるときには、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結し、その内容を遵守する必要があります。ただし、災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合には、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において法定労働時間外、または法定休日に労働させることができるとしています(労働基準法第331)
 この許可の基準は、、昭和22913日付け発基第17号および昭和261011日付け基発第696号(旧許可基準)により示されてきましたが、先日、現代的な事象等を踏まえて解釈の明確化を図られ、基準の一部を改正する新許可基準が示された通達と留意通達が発出されました。

新許可基準の通達
「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準の一部改正について」(基発06071(令和元年67))

 第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定であるからその臨時の必要の限度において厳格に運用すべきものであって、その許可又は事後の承認は、概ね次の基準によって取り扱うこと。
(1)
単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めないこと。
(2)
地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害への対応(差し迫った恐れがある場合における事前の対応を含む。)、急病への対応その他の人命又は公益を保護するための必要は認めること。例えば、災害その他避けることのできない事由により被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインや安全な道路交通の早期復旧のための対応、大規模なリコール対応は含まれること。
(3)
事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械・設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な保安は認めないこと。例えば、サーバーへの攻撃によるシステムダウンへの対応は含まれること。
(4)
上記(2)及び(3)の基準については、他の事業場からの協力要請に応じる場合においても、人命又は公益の確保のために協力要請に応じる場合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合には、認めること。

留意通達
「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準の解釈に当たっての留意点について」(基監発06071(令和元年67))

1.新許可基準による許可の対象には、災害その他避けることのできない事由に直接対応する場合に加えて、当該事由に対応するに当たり、必要不可欠に付随する業務を行う場合が含まれること。
 具体的には、例えば、事業場の総務部門において、当該事由に対応する労働者の利用に供するための食事や寝具の準備をする場合や、当該事由の対応のために必要な事業場の体制の構築に対応する場合等が含まれること。
2.
新許可基準(2)の「雪害」については、道路交通の確保等人命又は公益を保護するために除雪作業を行う臨時の必要がある場合が該当すること。
 具体的には、例えば、安全で円滑な道路交通の確保ができないことにより通常の社会生活の停滞を招くおそれがあり、国や地方公共団体等からの要請やあらかじめ定められた条件を満たした場合に除雪を行うこととした契約等に基づき除雪作業を行う場合や、人命への危険がある場合に住宅等の除雪を行う場合のほか、降雪により交通等の社会生活への重大な影響が予測される状況において、予防的に対応する場合も含まれるものであること。
3.
新許可基準(2)「ライフライン」には、電話回線やインターネット回線等の通信手段が含まれること。
4.
許可基準に定めた事項はあくまでも例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の事案についても「災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合」となることもあり得ること。例えば、新許可基準(4)においては、「他の事業場からの協力要請に応じる場合」について規定しているところであるが、これは、国や地方公共団体からの要請が含まれないことを意味するものではない。そのため、例えば、災害発生時において、国の依頼を受けて避難所避難者へ物資を緊急輸送する業務は対象となるものであること。

 以上。