2019311日発行】

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        人事労務マガジン/3月号
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【今号の内容】

職場のパワーハラスメントについて

年次有給休暇の確実な取得についての最終情報

時間外労働の上限規制についての最終情報

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パワーハラスメント防止対策の法制化【労働施策総合推進法】について

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政府は3月8日、職場でのパワーハラスメント(パワハラ)の防止策に取り組むことを企業に義務づける労働施策総合推進法の改正案を閣議決定した。今国会に提出し、成立をめざす。義務化の時期は早ければ大企業が2020年4月、中小企業が22年4月の見通しだ。

 職場のハラスメント対策では、セクハラや、妊娠や出産をめぐる嫌がらせ「マタハラ」では防止措置を講じることが企業に義務づけられている。ところがパワハラ対策は企業の自主性に任されており、パワハラの定義も定まっていない。

 法改正案では、パワハラを「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超えたもので、労働者の就業環境が害されること」と定義し、防止策を企業に義務づける。人員の少ない中小企業については、事業主の負担を軽くするために義務化の時期を大企業より2年間遅らせ、その間は「努力義務」とする。

 具体的な防止策は、法改正後につくる指針で定める。加害者の懲戒規定の策定相談窓口の設置社内調査体制の整備当事者のプライバシー保護などが想定されており、対策に取り組まない企業には、厚労省が改善を求める。それにも従わなければ企業名を公表できる規定も設ける。

 どんな行為がパワハラかの判断が難しいとの指摘があるため、指針ではパワハラ行為の具体例も示す。判断基準を分かりやすく示し、企業の取り組みを促す狙いがある。

職場のパワーハラスメントについて

 

職場のパワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義をしました。

この定義においては、

  • 上司から部下に対するものに限られず、職務上の地位や人間関係といった「職場内での優位性」を背景にする行為が該当すること
  • 業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合には該当せず、「業務の適正な範囲」を超える行為が該当すること

を明確にしています。

職場のパワーハラスメントの6類型

上記で定義した、職場のパワーハラスメントについて、裁判例や個別労働関係紛争処理事案に基づき、次の6類型を典型例として整理しました。

なお、これらは職場のパワーハラスメントに当たりうる行為のすべてについて、網羅するものではないことに留意する必要があります。

1.身体的な攻撃

蹴ったり、殴ったり、体に危害を加えるパワハラ

身体的な攻撃

提案書を上司に提出したところ、「出来が悪い」と怒鳴られ、灰皿を投げつけられて、眉間を割る大けがをした・・・(具体的事例)

蹴ったり、叩いたり、社員の体に危害を加える行為は「身体的攻撃」型のパワハラです。どんなに軽い書類でも、それを投げつけるような行為によって部下や同僚を威嚇し、従わせようとすることはパワハラとして決して許されるものではありません。

職務上の地位や知識などの優位的な地位を利用して、身体的な攻撃はパワハラに該当します。

2.精神的な攻撃

侮辱、暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラ

精神的な攻撃

職場の同僚の前で、直属の上司から、「ばか」「のろま」などの言葉を毎日のように浴びせられる・・・教育訓練という名目で懲罰的に規則の書き写しなどを長時間行う・・・自分だけでなく、周囲の同僚も怯えて職場環境が極めて悪化している・・・(具体的事例)

「やめてしまえ」などの社員としての地位を脅かす言葉、「おまえは小学生並みだな」「無能」などの侮辱、名誉棄損に当たる言葉、「バカ」「アホ」といったひどい暴言は、業務の指示の中で言われたとしても、業務を遂行するのに必要な言葉とは通常考えられません。
このため、こうした暴言による精神的な攻撃は、原則として業務の適正な範囲を超えてパワハラに当たると考えられます。

3.人間関係からの切り離し

仲間外れや無視など個人を疎外するパワハラ

人間関係からの切り離し

仕事のやり方を巡って上司と口論してから、必要な資料が配布されない、話しかけても無視される状態が続いている・・・(具体的事例)

一人だけ別室に席を離される、職場の全員が呼ばれている忘年会や送別会にわざと呼ばれていない、話しかけても無視される、すぐそばにいるのに連絡が他の人を介して行われる。このようなことが、職場の上司や先輩、古くから勤めている社員など、職場内での優位な立場を使って行われるとパワハラに該当します。

職場内での優位な地位とは、上司・部下といった指揮命令関係にある場合はもちろんのこと、業務の指導する立場にある先輩社員や業務に関する知識を有していて専門的な業務を行っている社員、古くから勤務している社員など様々な優位性が考えられます。

そのような立場の人が必要もないのに、無視や仲間外しなど仕事を円滑に進めるためにならない行為を行えば「人間関係からの切り離し」型のパワハラになります。

4.過大な要求

遂行不可能な業務を押し付けるパワハラ

過大な要求

出向先企業でとても一晩では処理しきれない量の業務を命ぜられた・・・出向先は、重要な取引先でもあり、とても断ることができずに毎晩徹夜をしている状況である・・・(具体的事例)

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害があった場合、「過大な要求」型のパワハラに当たることがあります。一人一人の業務量は会社やその部署の業務量によっても異なるので、単に仕事の量が多いというだけではパワハラとは言えませんが、例えば、業務上の些細なミスについて見せしめ的・懲罰的に就業規則の書き写しや始末書の提出を求めたり、能力や経験を超える無理な指示で他の社員よりも著しく多い業務量を課したりすることは、「過大な要求」型のパワハラに該当することがあります。

5.過小な要求

本来の仕事を取り上げるパワハラ

過小な要求

バスの運転手が公道で軽い接触事故を起こしたところ、上司が激怒して、翌日から3週間にわたり営業所の草むしりだけをさせられた・・・(具体的事例)

業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないことは「過小な要求」型のパワハラです。例えば、営業職として採用された社員に営業としての仕事を与えずに草むしりばかりさせたり、お前はもう仕事をするなといって仕事を与えずに放置したりすることなどが該当します。

こうした事例については、どこからが「業務の適正な範囲」を超えるパワハラなのかについては、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右されます。そのため、職場での認識をそろえて、その範囲を明確にすることが望まれます。

6.個の侵害

個人のプライバシーを侵害するパワハラ

個の侵害

年次有給休暇を取得して旅行に行こうとしたところ、上司から「誰と、どこへ行くのか、宿泊先はどこか」などと執拗に問われ、年次有給休暇の取得も認められなかった・・・(具体的事例)

労働基準法上、年次有給休暇の取得に当たり、社員が休暇の理由を申出する必要はありません。業務遂行に当たって、私的なことに関わる不適切な発言や私的なことに立ち入る管理などは「個の侵害」型のパワハラになります。例えば、管理職の者が社員の管理の目的ではなく、管理職としての優位性を利用して、私生活や休日の予定を聞いてきたり、携帯電話やロッカーなどの私物を覗き見たりすることなどが該当します。

ただし、会社の管理職には業務上必要で休暇の予定を聞いたり、可能であれば休暇時期を変更してもらったりする必要があるかもしれません。

「個の侵害」型のパワハラの場合、こうした事例については、どのようなことが「業務の適正な範囲」を超えるパワハラなのかについては、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右されます。そのため、職場での認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望まれます。

職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた取組

法改正案では、パワハラを「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超えたもので、労働者の就業環境が害されること」と定義し、防止策を企業に義務づける。人員の少ない中小企業については、事業主の負担を軽くするために義務化の時期を大企業より2年間遅らせ、その間は「努力義務」とする。

 具体的な防止策は、法改正後につくる指針で定める。加害者の懲戒規定の策定相談窓口の設置社内調査体制の整備当事者のプライバシー保護などが想定されており、対策に取り組まない企業には、厚労省が改善を求める。それにも従わなければ企業名を公表できる規定も設ける。

 どんな行為がパワハラかの判断が難しいとの指摘があるため、指針ではパワハラ行為の具体例も示す。判断基準を分かりやすく示し、企業の取り組みを促す狙いがある

 施行期日:2020年4月以降の施行の模様

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労基法(年次有給休暇)改正に伴う注意点の最終情報

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 法改正により、201941日から、使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日、時季を指定して有給休暇を与えることが必要です。

Point1.管理簿が必要

Point2.就業規則の変更が必要

になります。

1.管理簿

 今回、使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、記録を3年間管理しなければなりません。

 管理簿には、労働者ごとに

 時季(有給休暇を取得した日)

 取得日数

 基準日(有給休暇を与える日)

を明らかにしておかなければなりません。

2.就業規則の変更

 労基法の改正施行は、4/1ですので、それまでに就業規則を改定し労基署に届け出て頂く必要があります。残り3週間と期限が迫ってきましたので届け出漏れのないよう注意してください。

 

休暇に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)であるため、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法について、就業規則に記載しなければなりません。

(記載例)現在の貴社の就業規則によりますが、

「第1項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第2項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時期を指定して取得させる。ただし、労働者が第2項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。」

 

Point3.罰則

今回、下記の通り、法令違反した場合には罰則が科されることがあります。

労働基準法第39条第7項 年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合:30万円以下の罰金

労働基準法第89条    使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合:30万円以下の罰金

労働基準法第39条(第7項を除く) 労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合:6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

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時間外労働の上限規制についての最終情報

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法律で定められた労働時間の限度は、18時間及び140時間で、法律で定められた休日は毎週少なくとも1です。

これを超えるには、36協定の締結・届出が必要です。

20194月より(中小企業は20204月より)、時間外労働の上限が罰則付きで法律に規定され、施行されます。さらに、臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることが出来ない上限が設けられます。

1 労働時間に関する制度の見直し(労働基準法、労働安全衛生法)
・時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月(2~6カ月)平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。
)自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外あり。研究開発業務について、医師の面接指導を設けた上で、適用除外。

36協定も新しい届出様式に変わります。中小企業についても労基署から新しい様式で届け出を求められることがありますので、準備しておくとよいでしょう。届出様式は添付します。

また、新様式記入例の見本は下記のURLから参照してください。

36協定 https://www.mhlw.go.jp/content/000350328.pdf

特別条項付き https://www.mhlw.go.jp/content/000350329.pdf

以上。